で、ちょうどそれぐらい伐られた跡がある。こう証拠をつきつけられても、彼はいささかもたじろがず、オレはあの日一日伐っただけだから、それでは、それはオタツだろう、オレはオタツが牛でもヘタバるような大きな材木をかついで行くのを何べんも見たことがあると証言した。どこで見たか。あの谷で見た。あの谷で何べんも見たか。何べんも見た。たった一日しかあの谷へ行かない筈のお前がどうして何べんも見ることができたか。木を伐ったのは一日だけだが、オタツを見たのは何べんも見た。こういう応答だからラチはあかない。そこでオタツが逮捕された。オタツが現代の人間なら、下曾我に埋もれている筈はない。ジャーナリズムが彼女を当代の名士の一人に祭りあげない筈はないのである。相撲とりでも片手に一俵ずつ、四斗俵二ツぶらさげて土俵を三べんまわることができるのは少いそうだ。オタツはその上、口に一俵くわえることができる。そのほかにも持つ方法があれば、もう一俵ぐらいは持てるだろう。背負う力は限りを知らず、と伝えられている。
逮捕されて取調べられたオタツは、事実無根を言い張ったが、ナガレ目が彼女に不利な証言をしたことを知ると、顔がカッと真ッ
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