だ。
そういうわけで、雨坊主が丹沢山中へ赴く理由は、建築業からも、湯女業からも筋は立っていた。
ところが、ヤッカイ千万なことには、ナガレ目がタダモノではないということだ。変質者というのであろう。それも利巧すぎての変質者と異って、バカの上に変質者だから、彼がどういう不安や心配があって何を策謀しているか、その筋が普通人に分らない。
ナガレ目の曰く、オレは死んでいた雨坊主というヤツは今まで一度も見たことがないヤツだ、と云うのである。こういうことを云えば、不利である。それならば誰のために木を伐っていたか。誰かのために伐っていた証拠にはその材木が彼の家にも炭焼き小屋にもないではないか。こう改めて余計なことを追求されなければならない。
ところがナガレ目は平気なもので、前の取調べには一年前から時々伐っていたと云ったくせに、そんなことは眼中にないらしく、あの日はじめて伐りにでかけたのだ、と平然と云う。前に一年前からと云ったではないかと問いつめられても、奴めは全然問いつめられた様子がなくて、そんなことは言わないな、と云う。
しかし、一年前から伐っていた証拠はあの密林をしらべればハッキリ分ること
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