にはガマ六がいつも煮え湯をのまされる。とても成功の道はないと思われることを、雨坊主はさしたることもないらしく実現する力があって、いわばガマ六の怖るべき商売仇であった。
ガマ六が美女を探して歩くのも、雨坊主に対抗しうる唯一つの策がそれだけだからで、これだけは政治力があっても、学問があっても、それとこれでは勝負にならぬ。要するに本当の勝負はここできまる。むろん、それぐらいのことは、雨坊主は誰より先に知っているから、サガミ山中を歩くのはガマ六だけではない。彼は建築請負業としては別荘造りが専門で、推古から現代に至る木造建築に秘密というものはない、自分はそのあらゆる様式を再現する能力があると宣伝している。自分の作は他日国宝になるものだ、というのが彼の口癖であったというが、その実は、彼は建築について完全に無学であった。筋も根拠もないことを言いまくるが、彼のコツは相手を見くびって何物も怖れぬということで、素人相手の談議だから、それで通用して、むしろ高く評価されていたそうだ。私が小田原にいたころは彼の仕事をした棟梁(そのころは小僧だ)が生きていて、一パイ飲み屋で問いもせぬのに時々昔話をきかされたもの
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