て木を伐っていた。仕事中は、突然人が来ても分らぬ場所に牛を隠してつないでおく。彼は深夜山中に入り、日中働いて深夜帰る。そういう秘密の生活を一年ちかくつづけていたが、村で唯一人の炭焼きを副業にしていたから、不規則な生活も人に怪しまれることがなかった。
 菅谷巡査も捜査隊に加わっていたから、本署の手にうつる前にフシギな屍体を改めた。
 妙なことにはガマ六と同じように、これもゾロリとした着流しにワラジをはいている。またガマ六と同じように所持品が一ツも見当らない。目玉は二ツともチャンと顔についているが右の腕が肩もヒジも骨折している。牛と格闘したのであろう。二ツの角で二度つかれたから四ツの突かれた傷があるが、その傷は胸から腹まで四ヶ所、正面から突かれているが、上下に四ツ並んでいる。
 直立の姿勢で牛に突かれれば胸や腹に二ツずつ平行した傷がつく筈である。タテに四ツ並んでいるのは、横に倒れたところを突き刺されたことを示している。腹部の二ツは角の根本まで深くやられて、えぐられた後に角に突きあげ振りまわしてはねられたらしく、傷口は四方にちぎれて大きな口をひらき、ハラワタがとびだしていた。
「牛に追われて
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