血で真ッ赤だから大問題になった。里へとびだしてから自分の牛小屋へつくまで人やケダモノに怪我をさせていないから、血を浴びたのは山の奥だ。ナガレ目の姿が見えないから、牛に殺されているのかも知れない。飼い牛に殺されることは田舎に時々あることだ。ナガレ目はアダ名のように子供の時から目がただれてヤニがたまって流れているように見える。実に汚らしくて、子供の時から、人々にイヤがられ、あざけられて育った。そのためにヒネクレて、人にも無愛想であるし、おそらく牛にもジャケンであろう。そこで村人はナガレ目が自分の牛に殺されたものと結論して、大勢の者を呼びあつめて、ベンケイのでてきたあとを逆に山中へたどって行った。ところが誰も通わぬ筈のヒノキの谷の方向に踏みならされた自然の小道があって、ヒノキの谷までつづいており、そこに一人の屍体を発見した。また逃げようとする人影を認めて捕えると、それはナガレ目であった。屍体は誰だか分らなかった。
「オレは何も知らんぞ」
と、ナガレ目は言い張った。
屍体は牛の角に二度突き刺されて殺されたらしい。ほかに傷はないから、犯人は牛であるらしい。ナガレ目は牛をつないだ所から遠く離れ
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