上もたったらしく、どうやらハッキリ遠方へ去って、雷鳴がかすかになったので、カヤの外へでて手燭に灯をつけて、女中部屋の柱時計を見ると、十二時十分前だ。そこで亭主の当吉をゆり起して、お前さんは帰ってお休み。いつまでも女中部屋にねていちゃいけないよ。どうやら雷もやみそうだから、と彼の小屋へ戻らせた。当吉がモゾモゾ起きつつあるときにもピカリときたが、よほどたって遠雷がきこえた。いッたんハッと坐ってしまった当吉は、遠雷の音をたしかめて安心して去ったのである。ラクはオソノをゆりおこして、
「あなたも寝こんだのね。三枝ちゃんはどうしたのだろう? もう十二時だというのに、どこにいるのかしら? 私たちがカヤの中イッパイにフトンをひッかぶっているから、よその部屋でねていたのかも知れないわ。カミナリがやんでみると暑いのが分るわねえ。雨戸をしめきっているのだからねえ。三枝ちゃんは暑くッてこの部屋に居たくなかったのだろうね」
 実際オソノも汗グッショリであった。もう一ツの女中部屋にも三枝子の姿はなかったが、湯殿の隣室の化粧部屋とか、下の者の出入口につづく控えの小部屋のような涼しそうな部屋が諸々にあるから、そこに
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