だということを忘れて下さってはこまりますよ」
 それから居合す一同に云った。
「明日、正午に集りましょう」
 そして古田老巡査に何事かささやいた。

          ★

 海舟の前にかしこまっているのは虎之介であった。新十郎は今回はまたイヤに分ったらしい顔をしたが、今度という今度ばかりは、虎之介には何が何やら、てんで事件そのものが見当がつかないのである。花廼屋《はなのや》も同様らしく薄とぼけてニヤリニヤリしているが、単に無限にニヤリニヤリしているばかりで、日頃に似ず全然お喋りをしたがらぬ風が妙であるし、おもしろくもある。要するに奴めも全然何が何だか今度ばかりは手の施し様がないのであろう。
 そこで今回こそは花廼屋を尻目にかける絶好の機会。虎之介は全部を語り終って、海舟先生の推理が待ち遠しいこと。できるならヤワラの手でもむが如くに海舟の返事がもみだしたいほどムズムズしている。海舟はナイフをとって、例の如くに悪血をとること、今日は実に長い時間だなア。どうも海舟先生も今回だけは窮しているのかも知れん。ところが海舟は悪血をしぼり終ってナイフをおさめて、
「お三枝は無実ではあるが、由也の頼
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