り同じ主のうちでも、他の主よりも一時間も早目にカミナリをピンと感じる特別なのがいるからで、以下四十分早目、三十分早目というようにピンの感度は定っていて狂わない。実に主のピンは測候所の機械よりも確かなもので、かほどの霊感がありながら、と思われるものの、この主の親分が世間的に出世した話はあんまりきかないそうだね。
 さて、その晩は一月おくれのお盆がすぎた八月十八日のことであった。東京のカミナリはユウレイのように出現の時間は定まらないが、夕方前後のがわりに多くて、暴れ方も特別だという、これも一人の主の説である。
 ところがその晩のカミナリは、ピカリと光りだしたのが九時ちょッと前、八時半ごろ。主でなくてもピンに相違があるのか、カミナリのピカリがいつ始まったか、これは仲々わかりませんよ。
 九時ちょッと前か、八時半か、とこれが後日の問題になったのは、本郷駒込の母里《もり》大学という役人の邸の話。このへんはお寺の多いところで、八百屋お七ゆかりのお寺もこのへんのこと。母里大学邸も、塀の隣が墓地ではないが、裏の半町ほど先は墓地である。
 主人の大学は今で云うと農林省の相当のオエラ方の役人で、年は四十七
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