里というのであろうか。
このように完備した地図がどうして出来上るかというと、各地域に雷ギライの主《ぬし》のようなのが必ず住んでいるものだそうで、雷のなるたびに半分気を失いながらも必死に手帳とエンピツを握って進路を記録し、また翌日は落雷の地点をたしかめ、各地域の主と主とで記録を交換しあう。主から主へとレンラクはたちまちつくものだそうで、一致団結してカミナリ相手にどういう陰謀をたくらむというワケではなく、特に主同士で私交を深めることもないが、ただカミナリの進路をたしかめて各自の記録を交換しあうという一事に対してのみは神代説話的な執念と共鳴があるもののようだ。彼らがお金持ちの場合は、隠れ里の旅館をつきとめておいて、カミナリの気配がピンとくると取る物もとりあえず電車にのったり円タクをひろってその旅館へとびこむ。すると、よその土地の主も五六人相前後してアタフタととびこんできて、蒼ざめた常連の顔が揃う。カミナリがやむと、にわかに気焔をあげるようなことはなく、なんとなく散会するものだそうだね。隠れ里へ駈けこむ順がほぼ極っていて、特に、一番、二番、三番、という頭の方は狂うことがない。というのは、つま
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