るツモリであった。由也は三人とも起きているうちに帰宅したから三人で出迎えに出たが彼は手ブラであった。その後も彼が何か持ちかえった様子はない。
以上の通りであった。新十郎はテイネイに読んでうなずいて、
「よくお調べでしたね。いろいろ重大なことが、この結果によって語られていますよ」
「どれが重大なことですか」
「ほとんど一ツ残らず。さて、私が調べておいたことを申しあげましょうか。これは向島方面の警察と区役所の戸籍の係りからの返書で、料亭カネ万の女将はヤッコの抱え主の小勝と五親等の縁戚に当っておって、小勝も抱えのヤッコもカネ万とはジッコンにつきあっておりますよ。両者の交誼は現在に至るまでジッコンにして変化を認め得ず。これは警察の調べです」
「それは何を示しているのでしょうか」
重太郎が思い余ったように訊く。新十郎はニコニコして、
「あんまり重大すぎて、その御自分の推察を心配なさッていらッしゃるのでしょう。申すまでもなく、そこの女将と小勝の家とがジッコンなら、小勝の抱えと恋仲の由也君が他の女とのアイビキに当って、どこよりも小勝に知れ易いカネ万を選ぶでしょうか」
「すると、女将の言葉が当てにならないと仰有るのですか」
「さて、どういうことになるのでしょうか。しかし、おかげさまで実に重大なことが分りましたよ。ほら、ごらんなさい。あなた方の調査によって、泥の足跡をふいたらしい物は今日に至るも発見されない、とあります。実に大変なことだ。どれもこれも、大変なことばかり、よくもこう揃って分ったものだ」
新十郎の明るいハシャギ様はまるでフザケているように見えたほどである。それがすむと、彼は別人のように落ちついて、
「明日までに更に重大なことが分るでしょう。それもみんなあなた方の調査のおかげですよ。明日の午ごろおいで下さい。あるいは明日中に事件が解決するかも知れません」
「妹は無実でしょうか」
その思いつめた言葉に、新十郎は黙然として、ながく返事ができなかった。
「そうです無実です」
新十郎は呟いた。彼は重太郎の手をそッと握って、
「あなたのお仕事によって、尊敬すべき頼重太郎のお名前は以前からよく存じあげていましたよ。あなたは太陽ですよ。本当に太陽そのものだ。太陽自身が暗やむようなことは考えられませんでしょう。あなたの一生こそは日本の何百万人のための一生だ。何百万人の太陽があなただということを忘れて下さってはこまりますよ」
それから居合す一同に云った。
「明日、正午に集りましょう」
そして古田老巡査に何事かささやいた。
★
海舟の前にかしこまっているのは虎之介であった。新十郎は今回はまたイヤに分ったらしい顔をしたが、今度という今度ばかりは、虎之介には何が何やら、てんで事件そのものが見当がつかないのである。花廼屋《はなのや》も同様らしく薄とぼけてニヤリニヤリしているが、単に無限にニヤリニヤリしているばかりで、日頃に似ず全然お喋りをしたがらぬ風が妙であるし、おもしろくもある。要するに奴めも全然何が何だか今度ばかりは手の施し様がないのであろう。
そこで今回こそは花廼屋を尻目にかける絶好の機会。虎之介は全部を語り終って、海舟先生の推理が待ち遠しいこと。できるならヤワラの手でもむが如くに海舟の返事がもみだしたいほどムズムズしている。海舟はナイフをとって、例の如くに悪血をとること、今日は実に長い時間だなア。どうも海舟先生も今回だけは窮しているのかも知れん。ところが海舟は悪血をしぼり終ってナイフをおさめて、
「お三枝は無実ではあるが、由也の頼みによって身を隠したことにより、由也めがそれによって悪事を致しておる。お三枝は自らは弁《わきま》えないが、由也の悪事の片棒を担いだ結果になっているのだなア。青磁や皿をわったのはお三枝に非ず、泥酔の時田だなア。実は由也がわざとそっちへよろけるように仕向けて割らせたのかも知れないぜ。それが真相であろう。かくて時田にわらせ、それを時田に確認させて後に、お三枝がわった如くに見せて、お三枝にムネを含めて失踪せしめたな。時田に向っては、貴公を救うためお三枝の仕業の如くにクラヤミに仕掛をほどこしておいたところ、お三枝は己れのアヤマチと早合点して行方不明と相なったが、死んでおるかも知れぬ。これも貴公のアヤマチあればこそだ。こうインネンをつけて時田をゆすっているな。質をうけだしたのは申すまでもなくユスリでまきあげた金さ。この金の入要が動機であろう。裏庭の井戸に水音がしたというのは、お三枝の身投げと見せかけるためではなくて、そのアベコベだ。召使いが主家の秘蔵の瀬戸物をわれば誰しも思いつくのは皿屋敷にきまッてらアな。お三枝が己れのアヤマチと早合点してそッと家からぬけだした様子だが、裏庭の井戸へ身を投げたよう
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