供のため。少からぬ遺産があるに相違ないとの見込みでしょうが、こいつが実に謎の謎。イエ、お宝の有る無しじゃアございませんよ。そのお宝の持主が人間ではないとなると……イエ、まったくの話で。水野左近は人間ではない。鬼でござんす。しかも明日……」
酔ってもいたが、倉三の目が光った。
★
ミネは左近に嫁して三人の子を生んだ。ところが幕府瓦解とともに左近の人柄が変った。イヤ、変ったわけではない。もともと金銭にこまかく、疑り深くて、人情に冷淡。家族泣かせの左近であったが、外部に対しては如才のない社交家で、人のウケは大そうよい。幕府時代は家族の者にも身分相応にちかいことはしてやらなければならないから、さしたることもなかったが、幕府瓦解とともに左近の本性あらわれて、
「徳川あっての旗本だが、主家が亡びては乞食よりも身分が低くなったのだから、世間なみ、人間なみのことはしていられん。子供などを育てる身分ではなくなったし、子供もオレの子ではない方が幸せにきまっているから、今のうちに振り方をつけなければならん」
こう云って、きかばこそ、長男の正司、そのころまだ十という子供を、玉屋と
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