いう出入りの菓子屋へデッチ奉公にやってしまった。
「御大身の若様を手前どものデッチなどとは、とても」
と玉屋は拝まんばかりに辞退したが、
「大身などと昔のことだ。主家を失えば路頭に迷う犬畜生同然、道に落ちた芋の皮も拾って食わねばならん。恥も外聞も云うていられん。せめて子供には手に職をつけて麦飯ぐらいは食えるようにしてやりたいから、よろしくたのむ」
と、菓子屋の小僧に住みこませてしまった。次のリツという八ツの娘は子供のないお寺の坊主に養女にやる。ミネは悲歎にくれて、養子養女にやるならせめて同じ旗本のとこへと頼んだが、左近は怖しい剣幕で、
「旗本というのはみんなオレ同様、野良犬だ。坊主や菓子屋は白米もヨーカンもたべられる。貴様も米の飯がたべたいなら、オレのウチにいるな」
しかし、ミネもそのときは必死であった。自分の実兄、月村信祐に子がなかったから、左近に懇願して、次男の幸平を月村の養子にすることができた。そのとき左近は月村の前で、
「どうせ貴公も道におちた芋の皮を食うようになるだろう。芋の皮を食うようになっても、野良犬に親類はないから、どっちの軒先にも立ち寄らんことにしよう」
月村
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