かは疑わしい。
倉三夫婦は別に自炊し、ミネは自分の副食物やさらに主食をとるために内職しなければならなかった。
昨年、倉三の女房お清が死んでからは、左近は自炊するようになり、居間の掃除もセンタクも自分でやって一切ミネの手が介入することを許さないばかりでなく、それを機会にミネに御飯を配給するのもやめてしまった。
倉三は草雪に返盃して、
「私どももその時までは夫婦合わせて四十五銭のお給金をいただいておりました。実は五十銭いただく筈ですが五銭は家賃に差ッ引かれますんで。ところが、お清が死んでから、私のお給金がにわかに二十銭に下落いたしましたんで。男と女の給金が半々同額てえのも聞きなれないが、二十二銭五厘じゃなくって二十銭。当節は男の方が二銭五度安うござんすかと伺いを立てますてえと、五十銭の半分が二十五銭。そこから五銭の家賃を差ッぴいて二十銭。ねえ。半々にわるてえと二銭五厘もうかりますねえ。あの人のソロバンは」
「なるほど。しかし、お前もよく辛抱したが、あの令夫人はお子供衆や身寄りがないのかい」
「サ、そのことで。実の子が三人おありなんですが、むろん、利口者の奥様がジッと御辛抱なさるのも子
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