打。
「さては犯人は、久吉!」
 新十郎はいささか困惑。
「左近を突き刺した者は、子供でもなければ女でもあり得ますまい。相当に腕のたつ人。正司と常友は幼児から菓子屋と料亭へ小僧にあがった根からの町人で腕が立つとも思われませんし、幸平も武道には縁のない優男《やさおとこ》。ツカの根元までクラヤミの気配を狙って一刺しにできるのは相当の使い手でありましょう。剣術に手練《てだれ》の者は泉山先生の同門、志道軒一人のようです」
 新十郎はニッコリ笑って推理にとりかかった。
「内側からカンヌキを外した者が左近でないと分れば、この謎は解けましょう。カンヌキを外したのは久吉の他に有る筈がございません。そして久吉がカンヌキを外したことを全然否定している事実をお気づきになれば事件の謎は一目リョウゼンです。父親志道軒の云いつけ以外に、久吉が嘘をつく筈はありません。そして久吉がカンヌキを外したことを志道軒が隠さねばならぬ必要があるのは、彼がそれを利用して左近を殺したからでありましょう」
 それだけの推理では彼も甚だ不満の様子であった。彼は言葉をつづけて、
「倉三の話によりますと、骨肉相食む地獄図の実演を創案した左
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