近の設計には些か狂いがあったようです。その最も甚しいのが、いったん常友を相続者と定め、但し水野の戸籍に直った時を相続人の時期と定めて、それ以前に彼に万が一のことがあれば、久吉を以て相続人と定める旨を言い渡しました。倉三の語るところではこれは、志道軒をして、常友が水野の戸籍に直る前に殺させようとの企みで、常友と志道軒が他日再会することも容易でないから、その晩殺すに極っていると一方的に思いこんでいたようです。これが左近の大失敗でありました」
新十郎は愉しげに笑って、
「正司や幸平には常友を殺す動機はありませんから、もしも常友が殺されればその犯人は志道軒と自ら白状しているようなものではありませんか。しかし、常友の相続を妨げるもっともカンタンな方法があるのですよ。それはその晩、左近を殺してしまえばよろしいのです。さすればその晩は常友が水野の籍に直る前にきまっておりますから、相続者は久吉たること、決定的ではありませんか。おまけに常友が殺された場合とちがって、左近が殺された場合には、ミネも幸平も正司も彼を殺すに充分で、また強烈な動機があります。左近は人が殺し合うことにばかり熱中して、自分が殺され
前へ
次へ
全49ページ中47ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング