けられる仕掛けがありそうかい」
 新十郎はニッコリ笑って、
「全然ございません。板戸は柱を通りこして溝の中へピッタリはまるようにできておりますから外部からは隙間というものがございません」
「すると内側の者でなければカンヌキを外すことはできないな」
「その通りです」
「左近はカンヌキをしめるのを忘れたか、または左近がカンヌキを外したか」
「なぜでしょうか」
 海舟は新十郎の澄んだ目を見てフフンと笑って、
「奴メ、かねて用意の八本の刀をみんな隣室へ投げこんで、だんだん騒ぎがはじまったから、ソッと板戸をひらいてみたと考えられないかな」
「ハハア。天の岩戸でげすか。汚らしい大神様だね。力持の神様は誰だろう」
 花廼屋は遠慮なく海舟先生をまぜッ返している。ここがこの男の身上である。
 新十郎はややはじらって、
「先生の推理も一理ですが、部屋はいずれも真の闇で、左近といえども視覚によって愉しむことは思考外でありましたろう。それに、左近が殺された位置は、彼が隣室へ抜身を投げこみつつあった位置で、そこは欄間の下でもあって、隣室の音をききわけるには最も適した位置のようです」
 花廼屋はウッと驚き、膝を一
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