人の隣人がいぶかりながら台所を通って出ようとすると、――あった。おびただしい食器類がタライの中にゴチャ/\つめこんであり、その中にはこのウチでふだん用のない筈のカン徳利もタクサンある。そして台所の片隅に一升徳利が三本もあった。
場所が近いので、結城新十郎は古田巡査の迎えに応じて直ちに出動した。
新十郎がビックリしたのは、抜身の刀が左近の屍体の附近にしこたま散らかっていることだった。散らかっている抜身のどの一ツにも新しい血の跡はなかった。新十郎は左近の部屋と、ミネの死んでいた隣室との唯一の通路たる厚い板戸をしらべ、板戸の左右、三尺ほどの高さにあるカンヌキをしらべ、そのほかに、左近の屍体のあたりの壁の上方に欄間があって、二寸角もあるようなガンコな格子がはまっているのに注意したが、その格子に手をかけて揺さぶると、それはシッカリはまっていて、一度も取り外されたような形跡は見られなかった。
そのとき、そッと顔をだしたのは大原草雪である。彼はキマリわるそうに、
「一寸《ちょっと》お知らせしたいことがあるんですが」
と新十郎に挨拶して、倉三からきいた左近のフシギな実験についての計画を物語った
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