側から左右にカンヌキがかかるようになっている。しかし、そのカンヌキはかゝっておらず、開けることができた。
 戸口にちかいところに、左近が妙なカッコウにゆがみながら俯伏して死んでいた。背後から左近の背のほゞ中央を突いた小太刀が、ほとんどツバの附け根まで指しこまれ、肝臓の下部のあたりを突きぬいて一尺ほども刀の尖がとびだしていた。
 左近の屍体の近所には、フシギにも、八本の刀のサヤと七本の刀身がちらかっているが、いずれも刀身はサヤから抜き放れて別になって散らかっており、サヤが一本多いのは、刀身の一本が左近の身体にさしこまれているせいであった。
 その奥の部屋には、二ツの寝床がしかれていた。
 ミネが死んでいる部屋は全てがキレイに片づけられて、整頓されており、多数の人が泊ったあとは見られない。寝床は左近の奥の部屋に二ツしかれているだけだ。枕も各々に一ツずつ。どちらも一度は人がねたらしい形跡があった。
「おそくまで多勢の話声がしていたが。あの時刻から帰宅できるとすれば、近所に住む人々に限るようだが」
「多勢の客がいた跡がないのはフシギだね」
 と、昨夜の意外な来客の様子が特に深く印象されている二
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