が終ったとかで、早起きの老人が早朝から馬にカイバをやって、馬小屋の世話を念入りに見ていたものですが、今日はまだ誰も馬の世話をしてやった者がない。馬が腹をすかして羽目板を蹴っているが、早起きでキチョウメンの老人がどうしたのやら。多勢の来客も泊ったようだが、誰か起きてきそうなものですがなア」
午後になっても誰も起きてくる者がない。妙だというので、二人の隣人が警察へ知らせて、警官とともに、中へはいろうとすると、勝手口も、居間の潜り戸も内からカギやカンヌキがかかっているらしく、外からはあけられない。窓をしらべても、頑丈な格子がはまっている上に雨戸も堅く閉じられていて、猿や猫でも出入できるような隙間がなかった。ようやく勝手口をこじあけて中へはいると、実にサンタンたるものである。
台所の次の部屋にはミネがノドを突いて血の海へうつぶしてことぎれている。ヒザをシッカとヒモでむすび、自らノドを突いた覚悟の自殺のようであった。
さて、この部屋につゞいて左近の専用室が二つあるそうだが、出入口は一ヶ所幅三尺、高さが六尺の厚い板戸によって仕切られている。この一枚の板戸以外は厚い壁になっていた。板戸は左近の
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