のである。ここに於て局面は一変し、当日の出席者たる志道軒、常友、正司、幸平、ならびに久吉も呼ばれて各々別室に留置され、また、いったん小田原在の生国へ立ち戻った倉三も呼びだされた。彼は事件のあった日の夕刻、まちがいなく生国へ戻っており、その夜のアリバイはハッキリしていた。彼の無罪は明らかになったが、その証言が重大であるために、彼は最も鄭重《ていちょう》な扱いをうけて警察に宿泊することとなったのである。
ところが、こんな奇妙な事実はあるものではない。倉三の証言によって、当日水野の家に参集した筈の人物は全部個別的に取調べをうけたが、彼らの全ては、当日たしかに水野家へ参集したことをアッサリ認めたばかりでなく、酒宴となって夜更けまで酒をのんだこと、左近と久吉がその専用室へ立ち去って、そのとき厚い板戸は左近の手で閉じられて直ちに内側からカンヌキをかける音がハッキリきこえたこと、とりのこされた四名の男とミネは各自ミネに手伝って部屋の食事を片づけて、終ってミネが部屋を掃きだしてから五名の寝床をしいたこと、板前の職人だった常友が甚だ熱心に食器洗い等に立ち働いて甚だしくミネの感謝をかい、出前持の幸平はそ
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