つぐことになる。とにかくお前が当家の戸籍に返るまで、この一万円を久吉に預けて、その久吉の身柄は一万円ごとオレが当家に、このオレの室内に当分預っておくことにする。これで当家の相続問題と財産の分配はすんだが、本日は歴代の当主にとって一番大事な相続者がきまった日だから、オレにとってはこれほど目出たい日はない。特別に酒肴をだすから、今夕は存分に酩酊して、一同当家に一泊するがよかろう」
 そこで用意の酒肴をとりだして一同にふるまう。ここに意外にも最も当が外れたのは志道軒ムラクモであろう。若いころのふとした出来心、イタズラ心の所産で、常友が自分の子のような気は毛頭しないばかりでなく、生れた時から倉三の倅で、倉三のウチの畳の上で生れたガキではないか。オレの子と知っているのは内輪の四人五人だけで、親類縁者でもオレのオトシダネとは知らないのが普通だ。これがオレの嫡男とは迷惑な話。実にどうも思いもよらぬ。月にムラクモ。どうもオレの名が悪いや。しかし、彼奴《あいつ》が水野家の戸籍の人間になる前に万が一のことがあれば、久吉がオレの嫡男、代って当家をつぐ嫡流はこれだと言ったな。一思いに彼奴をバラしてしまえば、当
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