が終ってから、あと三ヶ日だけタダで泊めてやるから、三ヶ日のうちに荷物の整理をつけて立ち去るがよい。その三ヶ日はもはや奉公人ではないからウチの用はしなくともよい。さて、最後に一とッ走りしてもらおう」
 と、倉三を走らせて、志道軒、正司、幸平、常友のところへやり、倉三が立ち去る日の午すぎに当日財産を分与するからと参集を命じた。志道軒と常友は当日約束の貸金元利とりそろえて持参のこと、いずれも、心得ましたという返事があった。志道軒も常友も営業は格別のこともないが、まア順調のようであった。倉三が立ち戻って、承知しましたという一同の返事を伝えると、左近はニヤリと実に卑しげな笑みをもらして、にわかに抜き足さし足、自分の部屋へ泥棒にはいるようなカッコウで歩きながらチョイ/\とふりかえりつつ手まねきで倉三をよぶ。倉三がやむなく中へはいると、自分は一番奥の壁にピッタリひッついて尚もしきりに手まねきで自分の前まで呼びよせて、「シイー」口に指を当てて沈黙を示し、膝と膝をピッタリつき合わせて尚も無限ににじり寄りたげに、そして倉三の上体にからんで這い登るように延びあがって、倉三の耳もとに口をよせて尚、手で障子をつ
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