。五年前に輪をかけたことがオッぱじまろうてえ段どりで、私は永の奉公の奉公じまいという三日前に、旦那の云いつけで、一々案内状を持ってまわって来ましたんで。明日は水野左近の息子と孫がみんなあそこへ集りますが、そこで何がオッぱじまるかてえと、これが五年前にチャンと水野左近の頭の中に筋書ができていたのでさアね。呆れた話で」
倉三はムッと怒った顔になって、ちょッと口をつぐんだ。
★
五年前のあの時には、何事にもジッと堪え忍ぶことに馴れているさすがのミネも血相を変えた。わが身のことに堪え得ても、子供のことには堪えられぬ母の一念であろう。
あまりと云えばムゴタラしい仕打ちです。それではこの子があまり気の毒です、と、日頃の我慢を忘れて泣き狂い叫び狂うミネの狂態を半日の余もじらしたあげく、左近は薄笑いをうかべて、こう云ったのである。
「なるほど、片手落ちはいけないな。五年目にお前の子にも、なんとかしてやろう。五年ぐらいは夢のうちだな」
その五年目が明日であった。
その三日前、倉三が当日限りでヒマをもらうという最後の日によびよせて、
「今日がお前の奉公じまいの日だな。奉公
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