から、お清はワラにすがっても何とかしてやりたい胸の中思いきって左近にたのんでみた。
 左近はその借金の申込みが吉原の娼妓の身請けの金ときいて、興がった。彼は馬にのり、倉三に手綱をとらせ、常友に案内させて、吉原へ出かけて行った。
 彼は遊里というものを知らなかった。傾城《けいせい》にマコトなし、などと云うのに、相思相愛というのが解せない話で、そういうものが実在するにしても一興だが、行ってみてコトワザの方の真実を裏づけるような事実を見るのも一興である。ナニ、吉原見物そのものが一興。身請けとは古風な話。乙な理由にかこつけて傾城の部屋を訪ねて傾城をあッちこッちからユックリ眺めて、マコトありや、マコトなしや、否、そういうことは二の次、三の次、傾城を肌ちかくトックリ眺めて遊里の生活にふれてみるのがたのしい。見物料も別にいらないらしい。いるかも知れぬが、それは常友が払う金だ。
 さて吉原へ乗りこんで常友の女に会ってみると、大そう良い女だ。常友のようなグズで人のよい男を選んで一生の男ときめるのは、むしろ利口で勝気でシッカリしている女だからで、いかにも小股の切れあがった感じ。社交性があって、当りがよい。
前へ 次へ
全49ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング