左近は自分がムコになったようにニタリニタリとなんとなく相好をくずすていたらく。三百円貸していただいて身請けはさせていたゞいても常さんの板前の稼ぎではいつ返済できるか分らない。それを思うと板前さんの稼ぎなんて心細くて、たよりない。吉原で相当格式のある貸座敷の主人がワケがあって近々廃業帰国することになり、家財も娼妓もついたまゝ八千円で売りに出ているが、この商売なら五年もかゝれば元利をきれいに返済出来る見込みがある。自分も悲しい苦界づとめのおかげで、この商売の経営には自信があるのだが、アア、お金がほしい……。
左近はこの言葉を小耳にとめたが、それは知らぬ顔。とにかくポンと気前よく三百円だしてやって、二人を結婚させた。さて八千円かして二人に貸座敷をやらせると、どう云う事に相成ろうか。月々貸した金の利息をとりに行って、その日はゆっくりとたゞで傾城の部屋へ坐っていろ/\と女の話をしたり、手や膝がふれるとか、まアなにかのハズミでいろいろ思わぬタノシミができるであろう。左近はそう考えめぐらすだけで、なんとなく楽しい毎日をすごした。
彼は勿論本当に八千円の金を貸してやろうなぞと考えていたわけではなか
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