りません。まれに覆面をつけて人目に現れた風守さまは私自身でありました。早急に一応の後嗣を定めるために大殿さまが苦心の末に編みだしたカラクリでしたが、四年を経てもまことのニンシンが起らぬために、架空の後嗣風守さまの母は真の後嗣の母たるべき人のために覚悟の自害をとげられた由であります。風守さまの人デンカン、覆面、座敷牢、唯一の御相手たる私、それらはすべて大殿さまと良伯医師と私の父が合議の上で予定をたてた計略でありました。その計略が成功して、今日まで疑う者のなかったことは、御承知の通りであります。
 私が藤ダナの下で光子さまに風守さまの死期近きことを予言しましたのは、魔がさしたと申しましょうか。わが身に定まる運命を忘れて、おろかにも俗心、盲いた心の迷いでありました。いつしか多少の才にうねぼれ、西洋へ遊学させてやろうという大殿さまのお言葉を励みに、身に定められた義務を益々忠実に果すべきでありましたのに、義務をすてても遊学をいそぐ心の迷いが生じたのです。とにかく遊学するためには、風守さまをこの世から消滅せしめる義務を行う必要があります。いかにすれば消滅せしめうるか。代りの誰かを焼き殺して白骨を残
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