そッくり残っていた。
「風守さまの天才をゆっくり観賞したいと思いますが、しばらく拝借できましょうか。決して損んじたり失ったりはいたしません」
「どうぞ」
 という許しを得て、それを大事にフロシキに包み、病める天才の起居した牢内をテイネイに見て廻った。造られてから二十数年の年月に、古びてはいる。しかし刃物や筆などでイタズラの跡はなかった。無気力で身動きも容易ではない病弱な人の衰えきった起居の様を示しているようであった。
 土彦や文彦の話もきいたが、光子のような謎のこもった観察をきくことはできなかった。
 最後に英信に会った。木々彦の生死が不明なだけで、事件そのものの存否も確かではないのだから、新十郎は多くのことを訊かなかった。
「今後も御研究をおつづけですか」
 こう新十郎がきくと、英信は暗い顔をくもらせて、
「つづけたいと思ってはいます。西洋へ遊学させて下さるようなお話もあったのですが、大殿さまが御他界では、その望みもかなうかどうか分りません」
「妙なことをお訊きするようですが、藤ダナの下で光子さまにこう仰有ったそうですね。生きているのはやさしいが死ぬのはむずかしい、と。これは、どの意
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