どである。
「英信が! いつ、そんなことを言いましたか! あのキチガイめが! イヤ、イヤ。ちがうぞ。いくら、なんでも、そんなことを云う筈がない」
このとぼけた人物にまで、こうキッパリ否定されるということは、彼女にはたまらないことであった。やっぱり話すべきではなかったのだ。この邸内にある限り、このとぼけた人物ですら、風守についての噂は常にタブーでなければならないのだ。
けれども、いったん言いかけた以上は、光子はゴマカシができなかったし、必死でもあった。
「さっき、藤ダナの下で、英信さんからおききしたばかりです。私はウソなぞ、つきません」
光子の鋭い眼、思いつめた様をジックリながめて、良伯は落ちつきをとりもどした。
「なるほど、そうですか。どんな病気で風守さまの死期が近づいたと申しましたか」
「私がそれをおききしているのではありませんか」
「そんな怖い目でお睨みになってはいけませんよ。美しいお嬢さまにそんな目で睨まれては、この良伯が石になってしまいます。私のミタテは怪しいものだが、しかし、英信メが私よりもミタテがいいとは信じられんが、良伯の見るところでは、風守さまに死期がちかづいた御
前へ
次へ
全56ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング