いから、益々こだわり、益々名門然、殿様然と見せたがる。だから、自分も働いてお金をもうけることをせず、木々彦がグウタラな道楽息子に育ち上るのを意に介せず、名家の子はノンビリとしたい放題、そんなものだと心得ている。そのくせ、内心は何よりお金が欲しい。一もうけしたいのだ。なぜなら、やがて文無しになるのを彼だけは充分に心得ていたからである。
 金モウケといっても当てがあるわけではないから、何より残念なのは、木々彦が本家の後嗣になれなかったことだ。弟一家が本家にひきとられ、広大な別荘に起居しているのが残念でたまらない。何かにつけてその反感が言葉にでる。風守が業病にとりつかれたのは天罰だ。昔はそう言いふらしたものだが、今では、土彦の後妻に男子が生れて、もはや風守はキチガイでもないのに座敷牢へ閉じこめられている。それは後妻の子を後嗣にしようという土彦夫妻の陰謀だというようになった。ところが、ヒョウタンから駒がでるとはこのことで、これが真相をついているようなフシもあった。
 それをビリビリ身にしみて感じたのは光子であった。少女の霊感と云おうか。世事にうといとはいえ、汚れなき魂の直感であった。光子には思
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