明治開化 安吾捕物
その九 覆面屋敷
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)呪《のろい》を

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)多久|駒守《こまもり》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ピョン/\
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 光子は一枝の言葉が頭にからみついて放れなかった。
「ちょっとでよいから、のぞかせてよ。風守さまのお部屋を」
「ダメ。お部屋どころか、別館の近くへ立寄ってもいけないのよ」
 すると一枝はあざわらって、
「そうでしょうよ。牢屋ですもの。しかも……」
 一度言葉をきって、益々意地わるく薄笑いしながら、
「風守さまは御病気ではないのでしょう。気が違ってらッしゃるなんてウソなんだわ。健全な風守さまを病気と称して座敷牢へとじこめたイワレは、いかに?」
 一枝の目は呪《のろい》をかける妖婆のように光った。そして、云った。
「母なき子、あわれ。母ある子、幸あれ」
 そして、フッと溜息をもらして、光子の傍らから離れ去ったのである。光子の頭にからみついたのは、その最後の呪文のような一句であった。
 兄妹とはいえ
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