らいなら、いっそ自分が死にたいと、二人目ぐらいに気を失いかけてフラフラ逃げだすような人ですよ」
しかし新十郎はこの事件を忘れていたわけではなかったのである。
彼はある日、だしぬけに松島物産の事務所を訪れ、帳簿の提出をもとめて、数日がかりでシサイに調べた。
それから一ヶ月ほど経て、兵頭一力が上京したときに、彼は時計館の別館にただひとり一力を訪ねた。人払いをもとめて、静かに対坐し、
「私は警官ではないのです。別に犯人をあげたいとは思いませんが、私の性分として、犯人を知らなければならないのです」
彼はニコニコ一力に笑みかけながら、
「三名の者が失踪した二日目に、入荷した品物がありましたね。それを船で塩竈へ運ぶための」
一力はニコニコと、
「そう、そう、ランプ用の石油カン。それをおききになりたいのでしょうな」
「たしか二十本でしたな」
「その通りです」
新十郎はクスリと笑って、
「それが来たときは、二十本の石油カンですが、翌日は十七本の石油カンと、三本はほかの物がつまっていましたね」
「いえ。やっぱり石油です。だが、石油のほかの物も一しょにつまったというのが正しいのですよ」
一力
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