絵師の花亭に二人の女をひきとるような家があろうとは思われませんな」
「三名の者は殺されているな。犯人は梶原正二郎よ。お久美が元のサヤにおさまろうてえ気持がないから、駒子と添いとげるには、三名の者を殺す一手あるのみ。これほど明白な事実はあるまい。近所の土を掘ってみな。どこかから死体が現れてくらアな」
甚だカンタン明快であった。虎之介はさもあるべしと打ちうなずき、新十郎のもとへ馳せつけて、
「相変らず浮かない顔だね。昔話に、ここ掘れワンワンという話があるが、気がつきそうなものじゃないかね。お久美が元のサヤにおさまらないから、駒子と添いとげるには三名を殺す一手。犯人は梶原正二郎。アッハッハ。明々白々。近所の土を掘ってごらんな。三人の死体がでらア」
新十郎はクスリと笑って、
「人間は誰でも人殺しぐらいはやりかねませんが、生理的にやや縁遠い人物はいるものですよ。梶原さんは生来の小心臆病者、力にも自信がなく、生理的にとても人殺しのできない人ですよ。時にカッとして女の一人ぐらいは締め殺しても、その次の部屋でまた一人殺し、その次の部屋でまた一人殺すという勇気は持続しませんよ。こう苦労して人を殺すぐ
前へ
次へ
全44ページ中41ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング