橋では前代未聞の大金、人の噂が大変だ。それからそれへと尾ヒレがついて、世間一般の噂になり、警察の手がうごくことになったのである。

          ★

 警察が手をつけた時は、その日から三ヶ月の余もすぎていた。三名の姿が消え失せた時、その部屋がどんな風になっていたやら、その記憶もマチマチで、てんで、よりどころというものがない。たよりに思うのは、この屋敷の味方でもないらしいお久美、お園、八十吉という鮫河橋三人組だが、これはお客様、むしろ風来坊的存在で、その現場などにはタッチしていないから、どうにもならない。そこで新十郎の出馬を乞うことになった。新十郎とても、現場の様子が皆目手がかりがなくては、どうすることもできない。一応その部屋部屋をしらべ、当夜の状況をきいてみたが、これも要領を得ないのである。新十郎が煮えきらぬ顔、まるで投げたように気乗薄であるから、虎之介は、ここはこの先生の心眼あるのみ、と、氷川の海舟邸に参上、逐一事の次第を物語って解決を乞うた。
「お米お源花亭の三名は塩竈に立ち返っちゃアいないのかえ」
「ハ。それはもう立ち返ってはおりません。松川花亭は生国不明でありますが、旅
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