ったのです。私の抱え主の芸者屋のおカアさんにも姉が呉れ呉れも念を押したことで、私が母や姉を思いだしたら諭してくれるように、また兄さんが会いに来たりユスリに来ても私には会わせないように、と頼んでおりました。お龍姐さんが附き添っている役目の一ツも、私の家の者のことで旦那に迷惑がかからぬように、堅く見張りをするようにとおカアさんに言い含められて来ているのです」
 駒子の覚悟はキッパリしていた。正二郎が案じる必要もなかったのだ。しかし、世間は望み通り順調に運んでくれるものではない。

          ★

 お源とお米が尾羽うちからして正二郎のところへ迷いこんできた。船頭の宮吉の口車にのって、家も財産もそっくり彼の造船事業につぎこんで、結局かたりとられてしまったのである。宮吉が彼女らに与えた最後の言葉は、ナニ、お前の聟は東京名題の大金持じゃアないか。塩竈のチッポケな財産なんぞが消えてなくなったってタダみたいのものよ。東京へ行って栄耀栄華に暮すが最上の分別さ、ということであった。
 宮吉には弱いが、正二郎には強い女たちであった。正二郎は彼女らに別の小さな住居を与えようとしたが、彼女らはきかな
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