かった。
「ここは私たちのウチだもの。歴とした本妻だし、その母だもの」
二人の女は言い張った。とりあえず二三日は近所に宿をとれとすすめても、正二郎が困れば困るほど威丈高で、自分の家を主張して譲らなかった。
邸内に庭園をはさんで同じような立派な西洋館がもう一ツあった。それは正二郎が一力の上京中の宿のためにマゴコロをこめ善美をこらして用意したものであった。二人の女はその別館に目をとめると、
「じゃア私たちは邪魔にならないように、あっちへ泊めてもらいましょう」
一人ぎめに住みこもうとすると、この時ばかりは正二郎が、百雷の落ちるが如くに激怒した。
「何を言うか。無礼者め。別館に泊ることができるのは、天下に恩人兵頭殿をおいて外にはいないぞ。ただ恩人の恩に報い、恩人をもてなすためにオレがマゴコロをこめて用意した別館だ。一足でも踏みこんでみよ。ひねりつぶしてやる」
二人の女はちょッと顔色を変えただけだった。正二郎が時を得顔に猛りたち威張りちらすのは、兵頭一力という名に力をかりているだけのことだ。大義名分があるからである。妾のお駒の名をかりてはグウの音もだせないのである。また、ほかの名によって
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