、夜はカズノコに一杯ぐらいできたもんだ。そのニマメもツタダニも干物もカズノコも、米もありやしねえじゃないかとタンカをきっていたのを見たが、なるほど戦争中の日本人の半分は貧民窟以下の食生活を経験したようである。しかし貧民窟では、その最低の食料を買う銭が一月のうち半分はなかったのである。
正二郎はいささか胸つぶれる思いであったが、お久美には今はメクラの連れ添う男がいて、小さい子供が五人も生れているといえば、今さら名乗りでて、どうなるものでもない。かえッてお久美を苦しめるばかりであろう。すでにこの世にないものと思った方が上策である。そこでお駒には、
「なるほど、気の毒なお母さん、姉さんだが、バクチ打ちの悪漢がついていては、なまじ私が世話をすると、却って双方迷惑する結果になるようだ。姉さんが、家も母も姉もないものと思え、とお前に諭したのは、よくそこを見ぬいているのであろう。私も充分考えてみて、できることは計らうから、お前はしばらく家族のことを思い出さないようにするがよい」
「私も思い出さないことにしていたのです。うッかり申上げてしまいましたが、母や姉をどうこうしでいただこうという気持ではなか
前へ
次へ
全44ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング