始めて見る駒千代のやさしく華やかな姿に見とれて、さてさて美しい妓があるものと深く心に思いとめた直後であるから、人生は微妙なものだ。渡りに舟とよろこび、女主人に駒千代の心をたしかめてもらうと、あの物静かな旦那なら定めしやさしく親切にして下さるでしょう、異存はございませんという即答で、めでたく話がきまった。女主人が何かと加勢して、然るべき家も見つけ、以前この土地で芸者をしていたお龍という婆さんが身寄がなくて今もって待合の女中をしていたのを駒千代につけてやり、
「あなたは駒ちゃんに仕えるわけじゃアありませんよ。駒ちゃん同様あなたの御主人様は旦那ですから、よく忠義をつくして、その代り、一生旦那に面倒を見てもらいなさい」
 正二郎の面前でこうコンコンと言いふくめ、また正二郎には忠義の代りに妾宅で死水をとってあげていただきたいと頼んでやった。下働きの小女も一人つけて、ここに一軒の妾宅ができた。
 さて妾宅を構えてみると、駒子はやさしく親切で可愛らしく、正二郎にはまるで欠点というものが分らないから、去る日も来る日も夢のようにうれしいばかり。女を知らない中年の男が女に溺れるとダラシがない。酒の味も覚え
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