マと一しょに居ちゃア生涯ウダツがあがらないよ」
正二郎は聟となって平井と姓が変っていた。一力の親切この上もない申出に正二郎は狂喜した。運漕をはじめて自分の財産ができて以来、寝た間も忘れることができないのは、清作の運命であった。暗い井戸端でフグを手造りしていた宮吉の姿、その毒を隠しもって二号の家へ忍びこんだに相違ない怪人物の姿、それはお米の姿でもあれば、お源の姿でもあるし、花亭の姿でもあった。その誰かが枕元に忍びよる幻想を忘れることができないのだ。塩竈の地にいては寝た間も心は休まらない。彼が商用に精がでるのも塩竈の地をはなれる喜びがとみに勇気を溢れ立たせるせいもあった。
そこで二人は会社を起し、土地の名所松島にちなんで、松島物産会社と名づけ、正二郎は副頭取、東京支店長となった。小心で考え深い正二郎は、武士には向かなかったが、商法には才があった。豪放な一力の女房役として細心に各地の情勢、各商人の動勢、相場の動きを察し、よく手綱をしめて一力を輔佐し、商運隆々として巨万の富を築くに至ったのである。時勢のせいもあったが、彼は意外にもハイカラ好みで、一流の西洋大工に命じて東京にいくつもない純西
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