で安い米が買えた。だいたいに奥州は水害冷害が甚しいが、この北上平野だけは古来から殆ど手を施さずして水害も少く別格の穀倉地帯である。伊達政宗は早くもここに目をつけで、この地だけは臣下に与えず自分の直轄地とし、年々ミノリ豊かなこの地の米を江戸へ売って儲けていたのである。維新後のドサクサ以来、一力はここに目をつけて、自ら米の運漕をやって儲けていたが、正二郎をあわれみ、彼に儲けの確実な仕事を分け与えたのであった。
 その年は特別の年であったから、一艘の米だけで正二郎は大儲けをした。直ちにとって返して、儲けた金で第二船第三船第四船と矢つぎ早に差し向けたのがことごとく大当り。今様小型紀国屋文左衛門。その半年で立派に財を築いた。一力もわが事のように喜び、
「なア、平井さん。あんたが一人で商売をやると儲けをアバズレにまきあげられてしまう。また、この地にいるのもよろしくない。今、東京では会社というものが、はやっている。オレとお前さんと組で会社をやろうじゃないか。オレが頭取で、お前さんが副頭取。オレがここを本拠にサイハイをふって物資を東京へ送るから、お前さんが東京の支店長で売り捌く役だ。この土地にあんなア
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