ふるえたが、できるだけ邪魔にならないように暮す以外に分別はなさそうだった。なまじ家にブラブラしているのがいけないと思ったので、お源やお米の許可を得て一力丸の親方を訪ね、
「私もヒマな身体で毎日ブラブラしていても仕方がありませんから、漁師の手伝いでもさせていただきたいものですが」
と頼むと、一力は一臂《いっぴ》の力をかして彼をこの地に住みつかせて以来、何かと彼に目をかけてやり、その気の毒な立場をよく了解しているから、甚だ哀れに思って、
「そうかい。お前さんがその気なら、ナニ、あんな家に小さくなっていなくッても、男一匹、立派な暮しが立つように、なんとでも力になるぜ。お前さんも天下の旗本だ。奥州くんだりへ来たからってアバズレ女に気兼ねするこたアないよ。だが、漁師なんぞがお前さんに勤まるもんじゃない。船を一艘かしてあげるから、運漕をやってごらんなさい」
自分が世話をやいている講中にムリをきいてもらって、わずか一回のカケ金だけで正二郎に無尽をおとしてやった。その金でそッくり米を買って、これを船で東京へ運んで売った。ところがその年は全国的な大凶作で米があがっているところへ、北上平野は上々の豊作
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