られたのである。二号は全財産を譲られる遺言状をもらっているが、三号に子供ができると遺言状が書き改められるに相違ないから、充分の動機があるのである。知らぬ存ぜぬと言い張っても役には立たず、死刑になってしまった。死の瞬間まで泣き狂って、ムジツの罪だ、犯人はお源だ、お米だと喚きつづけたそうだ。
町の人々にとっても二号の旦那殺しは有りうべきことであるから、彼女の処刑はとりわけ同情をかうこともなく冷淡に見送られた。この土地ではフグは食べると死ぬもの、食べない物ときめているから、網にかかったフグや漁師がイタズラ半分に持って帰ったフグは浜にすてられて顧る者がない。拾って帰るツモリなら誰でも拾って帰れるが、子供でもフグの毒は良く知っていて見向きもしないだけのことだ。
しかし、正二郎は怖しいことを知っていた。その前夜、船頭の宮吉が大きなフグを持ってきて、彼が井戸端で手造りしたのを正二郎は知っていた。江戸育ちの正二郎はフグを知らなかったが、後日の噂をききフグを一見するに及んで疑念が黒雲の如くによみがえってきたのである。
「オレのような余計な邪魔ものもいつ殺されるか知れたものではない」
と、彼は怖れに
前へ
次へ
全44ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング