、食事が終ると、にわかに苦しみはじめて、医者の手当もむなしく、急死してしまった。死に様が怪しいので検視の役人が酒や食物をしらべたが、どれと云って味の変ったものがない。しかし犬に食べさせてみると、三匹の犬が一様にヨタヨタとふらつきはじめて苦しんだあげく、まもなく死んでしまった。どの食物ということは分らなかったが、どれかに毒が仕込まれているのは確かであった。死に方が普通と変って、最後に全身がしびれるらしく、口もきけずに、鼻汁やヨダレをたらして息をひきとったのである。
 奥州ではフグを食う習慣は殆どない。しかしフグがとれないかというと大マチガイで、下関や福岡あたりの海よりも、三陸の海の方が無限にフグがとれるほどだ。もっとも外の魚が更に無限にとれるのである。要するに日本一の漁場ではある。土地の習慣でフグ料理は行われていないが、漁師にとって海に国境なく、土佐の沖も五島の沖も三陸の海つづきにすぎないのである。医者の判断よりも漁師の口から、そいつはフグの毒だろうと噂がたった。どの皿にもフグ料理はなかったが、ハキダメの中からさいたマフグが現れたので、ヌキサシならぬ証拠となった。二号は旦那殺しの罪で捕え
前へ 次へ
全44ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング