には三文の役にも立たないばかりか、うッかりするとインネンをつけられるモトになる。組頭であるために、正二郎の父はこの若者の顔を見るのが怖しくてたまらなかったというほどのシタタカ者。人の集りの多い通夜の席には現れずに、野辺の送りがすんでから乾分《こぶん》をつれてドヤドヤとやってきたのは、ホトケをカモに一夜ゆっくり飲もうというコンタン。彼らを見ると、後に残っていた少数の親戚も、逃げるように帰ってしまった。残ったのは正二郎と、その嫁のお久美だけである。
正二郎は小心の父に輪をかけた弱虫で、子供の時から同年輩のこの連中にいじめられながら、逃げ隠れするようにしてコソコソと育った男。蛇にみこまれたと同じことで、自分の分別でこの連中をどうすることもできない。云われる通りに酒をだすと、キリもなく飲み、酔いしれてバクチをはじめる。夜があけると、一ねむりして、日暮れに目をさますと、また酒を所望し、あげくにはバクチをはじめる。四日四晩それがつづいた。五日目の朝、数名の仲間があわただしく飛びこんできて、
「行方を探すのにどれぐらい苦労したか知れやしねえや。こんなところにトグロをまいてる時じゃアねえやな。そろそ
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