ろ戦争がはじまるぜ。上野寛永寺へたてこもることにきまったのだ。おいらも威勢を見せてやろうじゃないか」
「それは面白いな。酒もバクチもちょうど鼻についてきたところだ。正二郎。長らく世話になったが、面白い遊びを教えてやるから、一しょにこい」
江戸城開け渡し。軽挙モウドウをいましめるフレはでているのだから、正二郎はフレに反した戦争などはしたくはないが、この連中にこう云われると、否応ない。お久美は姙娠八ヶ月。父の野辺の送りのすんだ直後に、身重の身を一人とりのこされては生き行くスベもなかろう。そこで、おそるおそる、
「家内が姙娠八ヶ月で」
と云いかけると、
「バカヤローめ。女房のお産がすむまで戦争を待ってくれてえ侍が大昔からいたと思うか。ききなれないことを云う曲者じゃないか」
と怒鳴られて、別れを告げるイトマもあらばこそ、手をとられ、腰をつかまれて、夢のように上野寛永寺へたてこもってしまった。
戦争に負けたが、正二郎も加えて十三名のこの一隊、一人も手傷を負った者がない。要領のいい奴らで、戦争を遊山《ゆさん》と心得てかりそめにも勇み立つようなところがない。しばらく旅にでるのも面白かろうと、
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