になさるということを古い碁客から承りましたよ。あなたは御主人と甚八の四目の碁の終盤をごらんになりましたね」
「終盤だけ見ておりました」
「どんな碁でしたか」
「さア。黒によい碁でしたが、一隅の黒石が死んだので足らなくしたようでしたが」
「なにか筋を見落したということでしたね」
「見落しがあったようです」
「その筋は石の下ではありませんか」
新十郎の声は、にわかに早口で、高かった。千代はビックリして目をそらした。千代は答えなかった。
「甚八は村の方々をまわって、このへんに有名な石、珍しい石はないか、ときいていたそうですね」
千代は黙して答えない。
「とうとう川越の居酒屋で、タナグ山の祭神が、石だということを突きとめて、次の日からタナグ山へわけこんで歩きまわっていたそうですね」
千代はまだ答えながったが、新十郎は一向に気にかけない風であった。
「甚八はあなたの兄さんに答えて、オレが石をきいてまわるのは、仏が死ぬとき指したのが碁盤じゃなくて碁石だからと考えてみたからだと云ったそうですね。たしか甚八はそう申したそうですね」
千代は尚も答えがなかった。
「あなたは茶をもって二階へ上ったと
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