度して、おいで下さい」
「法事は明日じゃアありませんか」
「甚八さんは二十年前をお忘れとみえますね。あなたは仏と碁をうって夜をふかし、四目の対局の時には翌日未明になっていたのですよ。今夜はこれから二十年前を再現するのですが、碁盤にむかっているうちに、翌日未明になるでしょう。ちょうど津右衛門どのの死んだ時刻に霊が現れる筈になっております」
「ハハア。なるほど。私が誰と碁をうつのかね。まさか津右衛門さんの幽霊と碁をうつわけじゃアあるまいが」
「来てみれば分りますよ。みなさん用意してすでに集っておられますから」
「そうですかい。それじゃア支度して参ると致しましょう」
なるほど、霊が現れるにはそれにふさわしい道具だてが必要なわけだ。そのためにオレをよびよせたのか。こう云われてみれば分らないことはない。謎の文字を考えこんでいるうちに時を過して、夜中になってしまったと見える。
そこで甚八が支度をととのえて大きな台所へでてみると、これは驚いた。女中のギンとソノが二十年前の物らしい小娘の大柄な筒袖をきて控えている。千代もいる。彼女も特に命じられたのか、二十年前の物とおぼしい着物をきている。
ギン
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