が甚八の前へ坐りこんでペコリと挨拶するから、
「オヤ、改まって、なんだい?」
「イエ、二十年前がこうだったんですよ。私があんたを二階座敷へ御案内したのだから」
 ギンが二十年前のつもりらしく彼を二階へみちびくと、そこは二十年前と同じようにチャンと碁盤がそっくり昔の場所においてあって、その津右衛門の席に坐っているのは東太、その横に介添役に控えているのは天鬼であった。
 天鬼は甚八に笑いかけて、
「尊公もさだめし片腹いたかろう。これなる若者が当時三ツの仏のワスレガタミ東太だが、これを津右衛門の身代りに、尊公と二十年前の情景をここへ再現するのだそうだ。東太はねむたくて御覧のようにコックリコックリ、坐っていながら目があかない始末だから、オレがこうして介添役に控えているのさ。二人合せて津右衛門一人なみだよ」
「なるほど。すると、この坊っちゃんに仏の霊がのりうつるんですかい」
「イヤ、イヤ。そうじゃないそうだ。霊のうつるのは志呂足の娘でミコの比良という女だよ。自分のミコでもない東太にのりうつるような器用なことはできるものかい」
 定刻が来たらしく、志呂足が上座に現れ、比良が下座に現れ、控えという要
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