史に通じた読者はすでにお分りであろうが、この文中の佐渡金山奉行とあるのは、云うまでもなく大久保長安のことである。
家康の挙用した人物中で、大久保長安は僧天海以上の怪物であったろう。彼はもと甲州の猿楽師で大蔵太夫と云ったそうだが、能は相当な名手らしく、はじめ家康は能楽師として彼を召抱えたのである。ところが彼は金山試掘を建議し、言のままに伊豆北山を掘らせると多量の金がでた。つづいて佐渡に金山をひらき、そのフシギな手腕を認められて、経済運営の任に当り、諸国の金山を支配し、佐渡金山奉行も兼ねた。八王子に三万石の領地をもらったが、諸国の金山銀山を支配しているから年中旅行がちであり、自宅でも旅先でもその抜群の好色生活で当時の人々をうならせたものだ。落ちつく先々に妾の数は数十人。旅行中は夜毎の宿々で土地の女を数名侍らせてその方面に休息の必要を知らない。日本史上金へん随一の親玉。でる金の含有量もケタが違う。その時分海中へすてたクズが今では大切な原鉱だ。そのような金へんの精萃の気が身内にこもってゼツリンの精力が生れるのかも知れないね。彼はよく金銀も掘りだしたが、青史に稀れな精力の実績も記録に残している
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