らが何かトクをするかと考えてみると、どういう手筋を考えたって奴らのトクになるような結論はでてこない。たとえば甚八が癇癪を起して東京へ帰る。それが二十一周忌の一件に何かの影響があるだろうかとシサイに思いめぐらしても、なんの影響があろうとも思われない。甚八も賭け碁で一生きたえあげた眼力、人生表裏に相当徹しているツモリであるが、こうワケがわからなくては、ハイ、わかりません、で引ッこむわけに行くものではない。
「畜生メ。天下の甚八を怖れ気もなくよくもナメたマネをしやがるな。ようし。オレも神田の甚八だ。てめえらがその気なら、こッちは逃げ隠れするものかい。正体見とどけてツラの皮ひんむいてやるから覚えてやがれ。ついでに石の下の金箱をゴッソリ神田へミヤゲは持って帰ってやらア。アッハッハ」
こう度胸をきめて、里人の間を歩きまわって、石の話、千頭家の祖先の話、狙いをつけて訊いてまわる。
ふと川越の居酒屋で一パイのんだのが、これを運命というのであろう。
「オレは東京の大工だが、旦那にたのまれて石を探している者だがね。どうだい、このへんに名の知れた石はねえかね」
居酒屋のオヤジはいかにも土地の事情に明る
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