りませんから」
「そちらのツイデはそれがよろしいかも知れないが、こッちのツイデも考えてもらいたいね。私も棟梁と名がつくからには、ちッとは手下もいるしヒマな身体じゃありませんぜ」
 甚八の語気は甚だ荒かったが、須曾麻呂は言葉を濁して返答らしいものも云わない。さてはオレの癇癪が奴メにグッとこたえたらしいなと思っていると、そうではないらしく、千頭家へついてからの待遇の悪いこと。部屋は召使いどもの隣り部屋。食べる物も召使いと同様の物らしく、「法事の日は御馳走するからね」と女中がゾンザイに犬に食物を与えるようにおいて行く。酒をだせ、というと、ヘン、生意気なという顔で、それでも一本ぐらいは持ってきてくれるが、あとはてんでとりあわない。ほかに立派な部屋がいくつもあいてるようだから、こっちも招かれた法事の客、そッちへ移したらどうかと云うと、
「お前なんかと格の違う親類方がたくさん見えるんだよ。山の神のお客様だって、いつ遠方から泊りの方が見えるか知れやしない。お前さんはここでタクサンだ」
 というような挨拶であった。
 甚八は考えた。これはオレを怒らせようという算段かな、と。しかし、甚八の怒った結果、彼
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